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情報評価委員 特別インタビュー 第2回 安藤雄一先生

情報評価委員インタビュー第2回

e-ヘルスネットは、健康情報の専門家と、掲載コンテンツ10分野それぞれの専門家である「情報評価委員」10名の指示や承認のもと、情報提供を行っています。このたび、情報評価委員の先生方から、ご専門の内容やe-ヘルスネットに対する思いなどを聞かせていただくこととしました。
第2回として登場してくださるのは、座長の中山健夫先生同様、立ち上げ時期からe-ヘルスネットを支え、そして2019年度まで「歯・口腔の健康」分野を取りまとめてくださった、前情報評価委員の安藤雄一先生です。(2020年1月取材)

フッ化物利用の推進に地域で取り組んだ“新潟大学時代”

当時の歯科医院では、まだ「予防歯科」は一般的ではなかった

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私の専門の「予防歯科学」というのは、文字通り「歯科における予防」に関する学問です。私は20世紀まで、新潟大学歯学部の予防歯科学教室に勤務しました。
予防歯科学には大きく分けて、目の前の患者さんを相手に進めていく、つまり臨床における予防歯科と、地域で集団を相手に進めていく、公衆衛生の一環としての予防歯科の2つがあります。私自身はどちらかというと、「地域における予防歯科」の展開に力を入れてやってきました。

私が同大学を卒業した1983年当時は、患者さんが多すぎて歯科医がさばききれない状況で、治療中心。まだ、一般の歯科医院で予防歯科が実施されているケースはなかったですね。そんななか、フッ化物による公衆衛生的なむし歯予防法が全国で最も進んでいたのが新潟県でした。

フッ化物洗口を進める仕組みづくりでの経験が、その後の糧に

当時の県内には、学校の先生や行政の方、関連する方々などによる「子どもの歯を守る会」という民間組織があり、新潟大学の予防歯科学教室に事務局が置かれていたので、私はその事務局の仕事をずっと担当し、うち10年ほどは責任者を務めました。
実際にやっていたのはフッ化物による公衆衛生的な予防法を進める活動で、一つは水道水のフッ素濃度を調整する「水道水フロリデーション」という方法。こちらは当時まだ実現に至るような事例がありませんでした。もう一つは学校や保育所で、フッ化物の溶液で定期的にうがいを行う「フッ化物洗口」という方法です。これは行政施策として進められていて、さまざまな事例に遭遇・対処していく一方で、利用を推進する仕組みづくりも行っていました。フッ化物洗口は非常にシンプルな方法なのですが、たくさんの人の理解を得て仕組みを作らなければ進められず、かといって仕組みに頼っているだけでは進まないという大変さがありました。
諸先輩方の指導を受け、地域の方々との交流等いろいろな経験をし、狭い領域とはいえ公衆衛生を深く学ばせてもらいました。その経験が国立保健医療科学院(以下、「科学院」)での仕事にも活きていると思います。

臨床における予防歯科については、新潟大学では患者さんのデータを蓄積してまとめるという、当時の他大学ではあまりやっていなかったことを行っていました。臨床現場なので対照群を設けることができず、エビデンス的には弱いところもあったのですが、定期的に受診してもらって予防管理することの効果を実証できたと思います。

また、1995年ごろにレセプトデータを使った研究をやり始め、近年いろいろな研究が広がってきている「口腔と全身の関係」の研究にもかかわりました。当時はレセプトもまだ電子化されていなかったので、今よりずっと大変でしたね。

科学院でさまざまな分析を担当し、特定健診・特定保健指導にもかかわる

分析に携わった「国民健康・栄養調査」に、新潟大学時代の功績が反映

科学院に来たのは21世紀になってからです。新潟大学在籍時代と大きく変わったのは、歯科における全国調査である「歯科疾患実態調査」など、政府統計の一環として個人データを使った分析に携わるようになったことです。
また、厚生労働省の「」の分析も行っています。ここで調査している「歯の本数」は、歯科医師の口腔診査 によるものではなく、対象者にアンケートで聞いているものです。実は私は新潟大学時代に、「集団を見る場合はアンケート調査も活用できる」という趣旨の論文を書きましたので、それが政策に反映されたんだなと、感慨深かったですね。

「速食い」【注】の保健指導対象者向けのチラシを作成

特定健康診査(以下、特定健診)・特定保健指導に関しては、2008年ごろ、厚生労働科学研究費補助金(以下、厚労科研)の研究事業にかかわりました。

これは「一口30回よく噛むことが健康につながるかどうか」を研究するもので、全国の3つの大学にお願いして、医局員の方々に一口30回噛みを実行してもらって調査しました。対象者の体重を測ったり、BMIを測ったりしたところ、明らかとはいえないまでも「効果がないとはいえない」という結果が出たのです。この結果を踏まえ、次の段階として、速食いを含めた咀嚼とメタボとの関係を保健指導に活かす方法について検討を始めました。

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▲実際の保健指導用のパンフレット

現在、特定健診の質問票に「食べる速さ」を尋ねる項目がありますよね。研究班のメンバーで千葉県・大分県の全データを分析している方に調べてもらったところ、ちゃんと結果が出ているんです。性・年齢階級を問わず、保健指導レベルの「情報提供」「動機づけ支援」「積極的支援」の順に、だんだん速食いの割合が高くなります。メタボの人には速食いの人が多いということです。

とはいえ、保健指導でただ「あなたは速食いです」と伝えても、何をしたらよいかわからず、改善に結びつきませんよね。そこで医師や看護師、管理栄養士などいろんな職業の方と一緒に、「『早食い【注】』の習慣を見直しましょう」というパンフレットを作りました。
これは、早食いの原因が大体3パターンくらいあるところに目をつけて、例えば一口量の多い人には「小さいスプーンを使えば一口量が減る」とか、具体的な対策につなげるものです。

【注】当時は「早食い」と表記していましたが、「食べる速さ」が問題なので、現在は「速食い」と表記するようにしています。

健診の標準的な質問票には、2018年にようやく歯科が追加に

検討を重ね、これまで全く関係のなかった歯科分野の質問が加わった

その後、これまでの研究を踏まえて厚労科研でマニュアルを作りました。この成果はWebサイトに全部まとまっています()。

第3期改定では、たくさんの検討を重ね、標準的な質問票に歯科に関する質問が入りました。多くの関係者の努力が実ったのだと思います。質問票の内容を検討する研究班の主任を務められた、中山健夫先生のご尽力にも感謝しています。他分野の方から言わせると、これまで全く関係のなかった分野のものが質問票に入るのは、大変めずらしいそうです。

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その後、この質問票の内容を活かすために、日本歯科医師会でリーフレットを作ることになりました。特定保健指導の初回を担当する方々に、歯科に関連した内容についての指導方法を伝えるためのものです。私はこの役割を担ったワーキンググループの一員としてかかわらせていただきました。原案を作り、健保連や国保連、協会けんぽなどの保健師さんたちに送って意見を伺うなどしてできあがったのが、「『歯科』からのメタボ対策」です()。
今後NDB(レセプト情報・特定健診等情報データベース)のオープンデータや各保険者での分析が出てくるので、やがてこの質問やリーフレットの効果がわかるのではないかという期待があります。とはいえ、特定健診開始から10年かかってようやく歯科が加わることができたという状況ですので、まだまだこれからですね。

コモンリスクアプローチという考え方

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▲コモンリスクアプローチ

リーフレットを作るなかで感じたのが、「コモンリスクアプローチ」(Common Risk Approach)という点。これは、生活習慣のリスクとなるいくつかの要因が、さまざまな疾患に影響するので、特定の疾患対策としてアプローチするよりも、これらの疾患の共通リスクを退治するのが効率的という考え方です。たばこ対策などは、既にこのアプローチで進められていますが、他の領域ではこれからという状況のようです。例えば、歯がなくなってくると野菜など食物繊維の多いものが噛めなくなり、そうすると食事が咀嚼の容易なお菓子類などに偏って、肥満につながりやすいというエビデンスが徐々に出てきています。また、先述のように速食いも肥満につながります。保健指導では、喫煙や間食も歯科に関連がありますよと伝えてもらっていますが、コモンリスクアプローチ自体をどのように体系的にやっていくかは、あまり確立されていません。

e-ヘルスネットも、分野ごとの縦割りではなく他分野をまたぐ“横串展開”を考えていく必要が出てきています。e-ヘルスネットの情報評価委員会では、どこの分野でもまだ取り上げられていない「健康寿命」の扱いをどうするかを話し合っているところですが、すでにある記事にも「行動変容ステージモデル」など、縦割りで一つの分野に収めておくのはもったいないものがあります。横串でどう並べていくかというような検討が必要でしょう。

紆余曲折あったe-ヘルスネット

e-ヘルスネットにかかわったのは、2005年に厚生労働省から科学院に「歯科とたばこの分野を担当してほしい」という依頼があったのがきっかけでした。これを受け、歯科の分野では私がかかわることになりました。ちなみに、たばこの分野では吉見逸郎先生(現・国立がん研究センターがん対策情報センターたばこ政策支援部研究員)が担当されました。

当時のe-ヘルスネットは情報提供と個別指導をWebで行うという二本立てで進んでいました。しかし、その後、個別指導のほうは民間がいろんなシステムを作っていたため、情報提供に一本化して今の形になりました。

由田克士先生、宮地元彦先生など、当時のほかの情報評価委員と「単なる専門用語の解説ではなく、具体的な対策を載せて、これを見た人の生活改善につながるものでなくては意味がない」というコンセプトで一致し、制作を進めていきました。
かつては「歯科は歯科医院でみてもらえばいいんじゃない」という考え方が主流でしたが、「歯科も健康づくり施策の柱の一つである」という方向に変えてくれたのが、健康日本21で、その影響はすごく大きかったと思っています。この流れを受け、e-ヘルスネットに歯科の情報提供を掲載できたのは、励みになりました。

その後10年余りの間に紆余曲折がありましたが、継続してこられたことは意義深いと思っています。地道な細かい作業の積み重ねが必要でしたが、アクセス状況を確認すると意外とたくさんの人に読まれていることがわかり、情報評価委員のモチベーションが上がっていきました。

e-ヘルスネットの今後、そして歯科で危ぶまれる「2025年問題」

10年以上務めた情報評価委員を退任

私は今年度(2019年度)で情報評価委員を退任しますが【注】、情報評価委員の皆様とはとても楽しく仕事をさせていただき、非常によい勉強の場であり、刺激にもなりました。何より10年以上もの間、サイトとして継続できたことに意義を感じます。そもそもの企画がよかったのと、情報評価委員をはじめ、関係者の皆様それぞれに努力をしてきた証でしょう。

【注】現委員は、福田英輝氏(国立保健医療科学院・統括研究官-歯科口腔保健研究分野)。

今後のe-ヘルスネットについては、現在の大幅改定が全部終わってから、すでにある内容とこれから掲載すべき内容を整理し、PDCAを回していくのがよいのではないかと思います。また、アンケートなどを行って利用者の声を反映し、さらに有益な情報を提供できるようになればいいなと願います。面白く活用してくれている専門職の方などがいるはずなので、現場の声を聞きたいですね。

歯科専門職の需給分析でわかった、歯科医師の高齢化

私は今、科学院で再任用という立場で、自分でなければできないことを模索しながら仕事しているところです。
昔から行っているのが、歯科専門職の需給の分析です。歯科医師は過剰という話をよく耳にしますが、歯科医師の人口ピラミッドを作ると、高齢化が進んでいて、5年後の2025年頃から大量の歯科医師が引退する年齢になることがわかります。その数は若い世代の歯科医師よりも多いので、 歯科医師不足になる地域が現れると予測されます。また、歯科技工士という、入れ歯などを作る専門職も歯科医師と同様、高齢化が進んでいますので、近い将来、入れ歯の治療に支障が生じる可能性も懸念されます。歯科の「2025年問題」に向けた対応が必要と考えています。

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最後に、私のおすすめのデンタルケアは……まずは歯ブラシ・デンタルフロス・歯間ブラシで歯垢をしっかりと落とし、フッ素濃度の高い(1,500ppm)歯磨き剤でサッと歯みがきすること。詳しくは、e-ヘルスネット内の記事をよく読んでください。歯科保健の業務に携わる方には、科学院の「」もぜひ参照していただきたいと思います。

安藤 雄一

安藤 雄一(あんどう ゆういち)

国立保健医療科学院 生涯健康研究部 主任研究官

担当カテゴリ: 歯・口腔の健康

1983年新潟大学歯学部卒業。新潟大学歯学部予防歯科学講座医員、同助手、新潟大学歯学部附属病院講師、国立感染症研究所口腔科学部歯周病室長、国立保健医療科学院口腔保健部口腔保健情報室長、同生涯健康研究部上席主任研究官、同統括研究官を経て、2019年より現職。歯科口腔保健に関わる研究、人材育成、情報発信に努めている。

(最終更新日:2020年7月14日)